中予地方局産業振興課地域農業育成室 政本 泰幸

1 実践テーマ

  • (1)テーマ:中島地域における効果的・効率的なイノシシ捕獲対策の検討
  • (2)対象地区:松山市中島地区
  • (3)目的:中島地区は、平成11年に離島の怒和島、津和地島でイノシシを目撃したのを皮切りに、平成21年には全島で農作物被害が確認された。当地区では平成25年に「中島地区イノシシ被害対策連絡協議会」が結成され、集落ぐるみでの地域体制づくりが確立され、ほとんどのかんきつ園地で防護柵が設置されている。しかし、イノシシの生息密度が増加し、被害が後を絶たないことから、地元猟友会、農家ととともに、捕獲体制の一層の強化を図ることとした。

 


2 活動経過

(1)箱わなの実践活動
中島地区は、箱わなの餌としてかんきつを利用している場合が多い。中島で栽培されているかんきつは、9月の極早生温州~5月のカラマンダリンまでで、6月~8月の夏場の餌がなく、活用されていない箱わなが多い。そこで、かんきつ(カラマンダリン)を乾燥、粉末化した試作品を餌として捕獲実証を行った(写真1)。

(2)くくりわなの実践活動
中島地区で、イノシシの捕獲数が多い名人に弟子入りして、捕獲に有効な設置ポイントを教えてもらい、農家とくくりわなを設置して捕獲に取り組んだ(写真2)。また、捕獲に従事する人が少なく、意欲が低下している離島の二神地区において、くくりわなによる捕獲支援を行った。

写真1 カラマンダリン粉末を夏場の餌として試作し捕獲実証

写真2 くくりわなの名人に設置のポイントを学ぶ。


3 活動結果

(1)箱わなの実践活動
試作したカラマンダリン粉末は、イノシシが食べたことから餌として利用可能であった。しかし、乾燥に2日間、粉砕に半日と製造に手間がかかるため、地区での取り組みは見送られた。なお、夏場に樹上に残っているかんきつ(カラマンダリン)の生果を餌として、1頭の幼獣を捕獲できた(写真3)。

(2)くくりわなの実践活動
名人に学んだことを活かして、全島一斉わな掛けの9月、12月を中心に中島地区の猟友会員のアドバイスの元、農家とくくりわなの設置による捕獲に取り組み、5頭のイノシシを捕獲した(写真4)。また、くくりわなの設置数が年々減少していた二神地区では、イノシシが集落に出没するようになり、農地だけでなく集落への被害がみられている。
今回、くくりわなによる捕獲支援に取り組み、3頭のイノシシを捕獲でき、地区住民に喜んでもらえた。今後も、捕獲支援に取り組み、くくりわなを山に設置することで、集落への被害を減少させたい。

写真3 イノシシの幼獣捕獲に成功

写真4 押しバネ式くくりわなでの捕獲


4 考察

  • ○夏場の箱わなの餌としてカラマンダリンは有効であるが、毎年安定して手に入るものではない(今年は表年で収穫が間に合わず放置された果実があり、所有農家の承諾の元利用した)ことから、次年度は毎年安定して手に入るカブス等のかんきつを餌として用い、検討する。
  • ○かんきつの農繁期(中島は11~5月)は、農家がくくりわなの設置や見回りに時間が取りにくい。そのため、IT機器等の活用により、見回り等の省力化を図ることが必要であると考えられる。
  • ○くくりわなの設置が減少すると集落へイノシシが降りてくる傾向がみられるため、設置数を増やすことで被害を軽減できると考えられる。地元だけでは、捕獲従事者が少なく困難な場合は、周辺地区からの捕獲支援を行う体制の構築が重要であると考えられる。

 

参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


中島地域は、イノシシ対策については先進的な地域として知られており、被害も減少傾向にあるということでした。一方で、イノシシの生息密度は依然として高く、より効率的な捕獲手法を確立したいという要望から、指導では、鳥獣管理専門員が研究テーマとして取り組んでおられた「エサとなる柑橘類が不足する夏場にも有効な誘引方法の検討」への助言と、くくりわなによる捕獲技術の習得支援を指導テーマとすることにしました。

夏場の誘引方法の検討については、樹上に取り残されていたカラマンダリンを乾燥、粉末化するなどして夏場のエサとする試みなど、地域の課題に直結する意欲的なテーマではありましたが、残念ながら乾燥化や粉末化に大きな手間がかかるとのことで、本指導期間中には実用化に至りませんした。
一方、くくりわな捕獲については、地元の名人に師事し、失敗と成功を体験できたことで、地域の環境や土質に合ったわなの仕様やわなを設置する場所の選定技術、わな周辺でのイノシシの反応などを学ぶことができました。また、試作した電気止めさし器についても、実際に使用する機会を得て使用感や効果を確かめることもできました。

課題の解決に向けた鳥獣管理専門員の意欲や自由な発想力は、地域によって利用できる資源や環境が異なる鳥獣害対策の現場において、非常に有益な武器になりますので、今後のご活躍に期待しています。