実践テーマ:「捕獲技術向上による新規捕獲従事者の地域への定着促進」
1 これまでの取組経過
私は、愛媛県西予市三瓶町を対象に活動を行いました。三瓶町は柑橘栽培が盛んな地域で、耕作地の大部分で柑橘が栽培されています。近年イノシシを中心とする鳥獣による被害が多く、対策が望まれていました。
三瓶町4Hクラブ(農業後継者組織)ではプロジェクト活動として平成27年から「遠隔監視型捕獲システム ハンティングマスター」の試作機を導入し、メーカーと共に捕獲実証活動を行ってきました。そんな中、自分も狩猟免許を取得してイノシシを捕獲し、自分や地域の農地を守りたいというクラブ員が増え、平成29年度に12名が新たに狩猟免許を取得しました。そして、町内猟友会とも連携し、勉強会を開催しました。
2 鳥獣管理専門員実践講座の取組
平成30年度は、「捕獲技術向上による新規捕獲従事者の地域への定着促進」をテーマに、平成29年に狩猟免許を取得した12名に捕獲経験を積ませることを目的に活動を行いました。
(1)加害動物の生態・接近情報の把握、被害調査
平成30年度10月の柑橘収穫期以降、町内のミカン園地に中型獣と思われる被害が急激に増加しました。そこで、園地にセンサーカメラを設置し、被害の様子を撮影しました。
加害獣はタヌキとハクビシンでした。柑橘樹の裾部分(およそ50cm以下)の果実を引きちぎり、やや離れた場所できれいに食べているのがタヌキ、上手に樹に登り、外周部のおいしい果実を、その場で食べているのがハクビシンだと判明しました。撮影した動画は、講習会等で利用しました(動画1,2)。
(2)新技術を用いた効率的・省力的捕獲の推進
以前からある大型捕獲檻+遠隔監視型捕獲システムに加え、本年度は、箱罠やくくり罠に取り付け、罠が作動したらメールが届く広域型の罠センサーを試験的に導入しました。5台の子機を捕獲者に配布し使用してもらったところ、「準備をしてから出発できる」、「見回りに行きにくいところにつけると楽」、「他の人の状況もわかって面白い」といった意見が聞かれました。
(3)主に中型獣を対象とした箱罠による捕獲推進
中型獣捕獲檻を新規捕獲者に貸し出し、設置場所やエサ等について指導を行いました。狩猟免許を取得した若い後継者が多くいることを猟友会、農業関係組織等に広く周知し、サポートを依頼しました。
30年4月から2月までの間に、何らかの動物を捕獲できたのは12名中6名でした。捕獲頭数は、6名の合計で、イノシシ10頭、タヌキ31頭、ハクビシン6頭となりました。
今回捕獲できた人全員について、地元のベテラン捕獲者からの技術的指導や、中山間集落協定から捕獲機材の支給を受ける等、地元からの支援も手厚く、実践活動と合わせて新規捕獲者の定着を促進できたと考えられます。
専門家の解説
当該地域では、「狩猟免許を取得したものの捕獲実績が上がらず、免許の更新や狩猟者登録を迷っている人たちに、適切な技術や知識を伝えて定着させたい。」という鳥獣専門員さんの目標設定が明確であったため、この活動を後方支援することを目指しました。
具体的には、近年深刻化しつつある中型哺乳類の捕獲を通じて、捕獲活動全般において必要な知識や技術を習得していただき、最終的には最も被害が深刻なイノシシの捕獲活動に参画してもらおうという計画が提起されたため、こちらからは効率的な捕獲に必要な技術的な情報を提供させていただきました。また、10月からは鳥獣管理専門員さんが所属する西予農業指導班の活動として捕獲報知センサーの試験運用も始まりました。
事業の結果、短期間に十分な捕獲実績を上げることに成功しましたが、効果はそれだけにとどまらず、ICTツールを活用して、同じように活動する他者の取り組みや成果を共有できる仕組みを作ったことで、単調な捕獲活動に刺激を与え、従事者間に健全な競争意識を生み出した効果も大きいと思います。
当該地区は若手の従事者も多く後継者組織も充実しているようですので、引き続き鳥獣管理専門員を窓口に、生産者を軸として従事者や協力者を広げ、地域ぐるみで獣害と闘える体制づくりを推進してほしいと期待しています。