中予地方局産業振興課 村上 倫啓

1 実践テーマ

獣種の変化に対応した防護と捕獲の実践(対象集落:東温市奥松瀬川 桜羅楽農会)

 


2 活動経過

○活動地域選定

  • ・東温市の奥松瀬川地区を選定。平成28年度に当地区で取り組んだ鳥獣害に強い集落育成事業のフォローアップと、新たに出没するようになったニホンジカ・ニホンザルに対して対策を始めることとし、9/11に当地区の集落営農組織「桜羅楽農会」定例会にて合意形成を行い、実践活動をスタートした。
  • ・活動内容は桜羅楽農会定例会(毎月第2火曜日開催)にて報告するとともに、今後の具体的な活動内容について逐次協議を行った。

 

○集落環境点検

  • ・9/20及び10/31に集落環境点検を実施した。主な獣種(イノシシ、サル、シカ)について出没するエリアを聴き取り、痕跡の確認を行った。また、防護柵の設置状況や箱わなの設置状況を確認し、改善可能な箇所について取りまとめた。
  • ・点検結果は地図に書き込み、地区内の野生鳥獣対策状況を視覚化した。

 

○センサーカメラによるモニタリング調査

  • ・野生鳥獣の生態や出没状況を経時的に把握するためセンサーカメラを設置し、モニタリングを行った。モニタリング場所は環境点検時に見つけた「ぬた場」付近の濃い獣道とした(動画1)。

 

○捕獲支援

  • ・箱わなによる捕獲率向上に向け、餌付け及びわな設置方法の改善指導を行った。
  • ・同地区では使用頻度が低い「くくり罠」の使用について検討した。

 

○防護柵設置支援

  • ・ワイヤーメッシュによる共同柵の設置と効果的な設置方法について講習した。

 

○ニホンザル対策支援

  • ・センサーカメラによるモニタリングを行うとともに、捕獲用の簡易箱わなについて、わなを開発した県農林水産研究所より講師を招き、作成方法やサルの生態について講習した。

 


3 活動結果

  • ・集落点検や意見交換の結果、地区の防護柵設置が個人による柵が主体で電気柵が多く、突破されるなど被害を防ぎ切れなくなっている状況がわかった。
  • ・事業を活用し、集落内3地点で新たに共同の防護柵(ワイヤーメッシュ)を設置した。設置時には設置方法について講習を行い、住民の手により効果的に設置された。
  • ・柵の保守点検・維持管理する体制を具体的に協議した。
  • ・センサーカメラの映像から、当地区ではイノシシ、の出没は10月までが多く、11月以降は減る傾向が明らかになった。
  • ・遊休化した箱わなや不備のある箱わなを修正し、活用できるようにした。また、餌付けの実証を行い、餌付け時のイノシシの行動について、センサーカメラ映像を撮影、報告会で確認した(動画2)。
  • ・捕獲者の負担の少ない止め刺し方法として電機とめさし機の利用を検討した。実際に止め刺しに利用し、イノシシに対して効果が実証された。

写真1 サル檻試作

写真2 共同の柵防護設置

写真3 電気とめさし機


 


4 考察

図1 旬ごとの出没状況調査結果

活動を行った奥松瀬川地区は水稲が主な農産物であり、対策を開始した9月〜10月までのイノシシ、シカの出没は多く、地区内全域で農作物被害が発生していた。地区内に設置された防護柵は個人による設置が主であり、管理状況もまちまちなことが被害を防ぎきれていないと考えられる。今後は地域内で共同管理する集落柵へと段階的に更新していくことが望ましいと考えられた。
11月以降はイノシシ、シカの出没が減少した。このことは水稲を収穫したことで水田のえさ場としての価値が低下したこと、また猟期による捕獲で個体数が調整されるとともに、山間部へと追い払われたためと考えられた。今後は猟期の終了とともに再びイノシシ、シカの出没増加が懸念される。農業被害減少のために有害捕獲を継続し、個体数管理を行っていく。
サルは近年出没が増え、落葉果樹等に被害があるものの、常に集落付近に出没しておらず、カメラによるモニタリングは行えなかったため、今後はカレンダー調査等の手法も組み入れ群れの状況把握を行いたい。また追い払いや必要に応じた駆除により、集落の餌場としての価値を低下させていきたいと考えている。

参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


当該地区は、地域のルールにより、くくりわなの使用が一部制限されており、イノシシの捕獲には主に箱わなが使用されている地域でした。一方で、今回の鳥獣専門員の活動により、猟期中はイノシシの集落への寄り付きが著しく少なくなり、捕獲機会が減少している状況も明らかになりました。

これらの状況から、当地区では非猟期に行う箱わな捕獲の効率向上が重要な課題であると考えられたため、地域の代表者の方々と既設の箱わなの設置場所について再考し、より効果的な場所への移設と適切なエサの管理方法について提案しました。また、手作りの簡易箱わなについては、繰り返しの使用と経年劣化により破損個所も多く見受けられたため、具体的な補強方法についても指導しました。

その結果、箱わなについては、9月以降で8頭のイノシシを捕獲するなど実績を上げており、事業で製作した簡易電気止めさし器についてもご活用いただけました。さらに、今年度事業で取り組んだ共同柵の普及は、イノシシが集落周辺で利用できるエサ資源を制限する取り組みであり、被害の軽減効果に加えて、箱わなによる捕獲効率の向上にも貢献するものと期待されます。