えひめ中央農業協同組合東部営農支援センター 重松 政明

1 実践テーマ

  • (1)テーマ:農産物被害軽減に向けたイノシシ捕獲技術とサル・イノシシにおける防護柵設置技術習得について
  • (2)対象集落:松山市上伊台町実川地区
  • (3)背景・目的:当地区においては、平成30年にサル・イノシシ対策実施計画を策定し、モンキードッグや動物駆逐用煙火を用いて対策を行う先進地となっている。
    しかし、イノシシ・サルによる被害は例年発生し続けており、防護柵や捕獲檻設置を行い、被害軽減対策を進めることを目的とする。
  • (4)協力者:えひめ中央農協伊台支部

 


2 実践活動

(1)活動内容

  • ・集落の農産物の把握
  • ・捕獲檻の設置(餌付け・捕獲指導)
  • ・被害状況把握(獣種・品目)
  • ・センサーカメラ設置(発生場所)
  • ・防護柵の設置(複合柵・技術習得)
  • ・各活動の効果検証

(2)活動経過と結果

  • ①被害状況
    • ・地区農産物の特徴を把握し、被害状況のデータ確認や農家への聞き取りを行った。
    • ・当地区はぶどうを経営の柱とし(図1)、合わせて温州・桃・花木といった複合品目栽培経営をされている方が多く、特にぶどうの被害が多いことが判明した。(写真1)

図1 地区栽培品目分

写真1 サルの被害

  • ②イノシシ対策
    • ・センサーカメラの設置により、発生の多い園地を特定(動画1)。付近へ箱罠を設置し、捕獲作業を行った(写真2)。
    • ・餌付けは規格外品であるぶどうを10月上旬まで用い、以降は米糠、野菜を用いた。
    • ・ぶどうは嗜好性が強く、餌付け後、1週間程度で箱罠へ接近し(動画2)、さらにその1週間後、捕獲に繋げることができた。また、猟友会と連携し、電気止刺器の使用方法を学習した(写真3)。

写真2 設置の様子

写真3 止め刺しの様子

    • ・地区内では箱罠の有用性が認識され、2名が新規で箱罠設置を行う予定。
    • ・イノシシの園地内への侵入対策及び防護柵の設置技術習得のため、ワイヤーメッシュ柵の設置を行った。設置前の花木の園地では、マルチや苗への被害が著しかったものの、設置後は減少した。
  • ③サル対策
    • ・サルは地上及び空中の両方接近が考えられるため、複合柵(写真4)の設置を農家と連携し行った。
    • ・ワイヤーメッシュ上部及び下部へ電柵設置を行い、柑橘への被害防止対策を進めた。
    • ・傾斜地のためワイヤーメッシュと電柵に隙間ができないようワイヤーメッシュを切り貼りし、隙間を約10cmになるように設置した(写真5)。電柵の設置は収穫後となったが、イノシシの被害は設置後減少した。

写真4 複合柵設置後

写真5 傾斜地での設置

3 考察・まとめ

実践活動を通じて、JA担当地区内の被害状況を確認し、農家への鳥獣害対策への指導を密接に行った。イノシシ捕獲については新規での箱罠を導入したいという意見も増え、個人の農家による捕獲がさらに進むと予想されるので、農家ごとの捕獲技術のレベルアップを図る必要がある。また一方で、当地区は以前から守りの対策を進めていることもあり、イノシシだけでなく、サルの対策も考慮した複合柵は、他農家への見本となり、これからのさらなる指導によって設置が進んでいくものと考えられる。本年は、複合柵設置が遅れ、サルへの効果が検討できていないため、今後効果を検討していく必要がある。また、経営の柱となるぶどうにも複合柵を用い効果を検証すべきだと考える。

 

参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


当該地域は、柑橘や落葉果樹、花木、野菜類の産地であり、鳥獣害対策の基盤が既に完成した地域でもありました。地域で行ったヒアリング調査でも、イノシシの捕獲やサルの追い払いなどの体制は既に整備されており、地域として最善の策を議論できるプラットフォームも整っているという印象でした。

このため、当地の指導計画では、主に指導対象者の技術や知識向上に重心を置き、捕獲や被害対策の現場を知り、その勘所を体験していただくことを目指しました。また、今後、地域の計画策定に主体的に関わっていただくために、加害動物の生態や行動を把握するための調査手法についても、体験していただきました。

指導の結果、箱わなでのイノシシ捕獲に複数回成功し、試作した電気止めさし器を用いた殺処分も体験できました。また、地元の農家さんが実施したサル対策用の複合柵の設置作業にも参加させていただき、その苦労や対象動物の目線を意識した柵の補強、補修ポイントについても学ぶことができました。一方、サルの生態や行動を把握するための調査では、獣道に設置したセンサーカメラへの映り込み回数を集計することで、季節的な行動の変化や出没頻度を把握し、将来的に捕獲を検討する際の基礎データの蓄積にも貢献しました。

既に対策の基盤が完成した地域において、鳥獣管理専門員としてどのように対策の意思決定に関わって行かれるのか、今後の活躍を期待しています。