新居浜市農林水産課 赤壁 拓

1 実践テーマ

(1)テーマ:「鳥獣被害を自ら防ぐ」意識の形成について

(2)対象地区:新居浜市垣生地区

(3)目的:新居浜市は、平成30年度に鳥獣害対策係を設置し、その対策にあたっているが、防護柵導入状況が伸び悩んでおり、被害状況が改善しない。試験的に防護柵を設置して、その効果を検証するとともに、正しい設置方法の普及を図ることを目的とする。

 

2 活動経過

(今年度活動の前段階として)地元住民を対象としたイノシシ対策講座を実施(昨年度)

イノシシ対策講座を実施した(参加者数:約40名)。その際に、次のことを意識した①トレイルカメラで撮影したイノシシの写真・動画を多用。②曖昧な表現は排除して、できるだけ具体的な数値で示す。

巷では多くのイノシシにまつわる噂(デマ)があり、噂を基に被害対策を実施しても、被害軽減には至らないケースが多い。正確にイノシシの能力・生態を理解してもらうことにより、正しい対策を実施するための前提知識を周知した。(動画1~3)

 

(1)防護柵の設置

・防護柵設置にかかる注意事項の説明、防護柵の設置

防護柵は、管理主体をはっきりさせるために、集落柵ではなく、個別柵で設置することに決定した(設置希望者:11名)。電気柵は、設置は容易なものの、草刈り等の管理の手間が大きいことから、ワイヤーメッシュを柵の資材として選定。

鳥獣管理専門員講座で学習した、正しいワイヤーメッシュ柵設置方法を記載したプリントを配布し、口頭説明した。先にイノシシ対策講座を実施していること、説明量が多くなると要点分かりにくくなることから、プリントはA4サイズ片面印刷の簡潔なものとした(別紙1)。

ワイヤーメッシュ柵は農家自身に設置してもらうこととし、基本的に手伝わないこととした。これは、行政が過度に干渉してはじめて農業ができる状況は好ましくないためである(農業は生業(なりわい)、農家自身が対策の主役)。

・設置後の検査

柵設置後、完了検査を実施した。項目ごとに、減点方式でチェックをおこない、減点数に応じてイノシシの侵入可能性を4段階(侵入は困難~効果なし)で評価するシートを作成した(別紙2)。

 

(2)捕獲

・農地に出没している鳥獣の確認

トレイルカメラを用いて、出没している鳥獣を確認した。同一圃場内でイノシシ・ハクビシン・タヌキ・キツネの出没が確認された(動画4~7)。また、イノシシは、WM柵の隙間から首を入れて柑橘を摂食したと考えられる事例もあった(写真1)。

・捕獲の実施

被害の大きいイノシシは、くくり罠、タヌキ・ハクビシンは、小型箱罠で捕獲を実施した。捕獲参加者は、自らと協力者1名の計2名。ただし、一般の狩猟者も同一地区内で狩猟をおこなっていることから、可能な限り捕獲頭数を聞き取りにより把握した(聞き取りした狩猟者:3名(うち1名捕獲なし))。

 

3 活動結果

(1)防護柵の設置

○評価を実施すると、残念ながら、正しく設置されておらず、柵内へ侵入するケースもあったが、そのような状況に対して、どのような項目が、どのぐらい不適であったのかを明示することができた。また、正しく設置している農家は、イノシシの侵入なく収穫を迎えることができた。

○ワイヤーメッシュ柵の効果が評価されたため、本地区における防護柵補助(市単独事業)は、昨年度10件だったのに対し、令和2年度は1月末時点で20件に増加した。

(2)捕獲

○自らと協力者あわせて、イノシシ3頭、タヌキ1頭の捕獲があった。その他の狩猟者の捕獲数も含めると、同一地区でのイノシシ捕獲頭数は10頭になる。動画4~7までを撮影したトレイルカメラの映像を確認すると8月のイノシシの撮影数は43件に対して、1月4日から31日までの撮影数は3件であり、捕獲後、出没数が減少していると考えられる。

 

4 考察

○ワイヤーメッシュ柵は正しく設置すれば、イノシシの侵入をほぼ完全に防げる(ワイヤーメッシュ柵を設置したが、イノシシの侵入がある場合は、設置に不備がある可能性が高い)。

○ワイヤーメッシュ柵の効果を理屈で分かっていても、実際の経験がないと設置に至らない。具体的な成功経験を直接知ることにより、農家の対策意識が高まる。

○イノシシ用ワイヤーメッシュとして販売されているものは、製品によって目合い等の仕様が異なり、小型イノシシが目合いの大きい箇所から飛び込んで農地に侵入したり、強度が不足するためのしかかりにより破損する事例が他地区において見受けられた。イノシシ用として販売されているが、対策に適切でない製品があると考えられる。

○活動地域の垣生地区は、他の山林等と接しておらず(海を渡って他地区からイノシシが移動していると考えられるが、陸続きの地域と比べ移動は少ない)、南北約1㎞、東西0.5㎞の狭いエリアであることから、捕獲が出没件数の減少につながったものと考えられる。

参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


 垣生地区は、沿岸部に独立した狭い森林帯を抱えた地域であり、イノシシが頻繁に侵入を繰り返すような環境ではありません。一方で、海からイノシシが上陸したという情報はたびたび報告されており、これが核となって生息数を増やしたものと推察されました。一般的に、こうした閉鎖環境にイノシシが侵入すると、出口がないことで高密度化することが多く、隣接する住宅地や農地に深刻な被害が発生するリスクが高まります。

 今回、被害の深刻化に先駆け、地域に自衛の意識を芽生えさせられたことの意義は非常に大きいと思います。どんなに狭い森林帯であっても、海からの侵入を止められない以上、イノシシを完全に排除することはできません。このため、当該地区に暮らす住民のみなさんは、自ら大切な作物を守るために適切に防護柵を設置、管理する必要があります。同時に、日常生活の安全を確保するためには、地域ぐるみで侵入したイノシシを除去する取り組みを続ける必要があります。

 一方で、今回は支援メニューの中に入れませんでしたが、海からの侵入を防止する対策についても、検討する価値はあると考えます。四国の港湾地帯では、既にイノシシの上陸防止対策を講じている地域も出始めていますので、こうした先進事例に倣い、上述した対策と並行して、上陸を未然に防ぐ対策がないか検討されることをお勧めします。

 最後に、今回鳥獣管理専門員が特に心を砕いた「わかりやすさ」や「伝わりやすさ」を追求する姿勢は高く評価したいと思います。せっかくの貴重な知見も、当事者に伝わらないのであれば意味はありません。チラシやマニュアルを作成する際には、必要最小限の情報を短い言葉で伝えるよう工夫することも指導者には必要な資質であると考えます。鳥獣管理専門員としてのますますの活躍を期待しています。