1 実践テーマ
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- (1)テーマ:
- 添賀地区における「攻めと守り」の更なる体制作り
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- (2)対象地区:
- 伊予市中山町添賀地区
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- (3)目的:
- 添賀地区生産者を対象にアンケート調査を実施し、その結果に基づく獣害対策への協力体制構築に向けた意識付けを行う。また、「守り」の対策として、設置が進んでいないWM柵の設置を推進するとともに、「攻め」の対策として、センサーカメラ等を活用した効率的な捕獲を推進し、捕獲体制の強化を図る。
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- (4)協力者:
- 中山猟友会、佐礼谷猟友会、添賀地区生産者
2 活動経過
- (1)アンケート調査の実施
地区生産者に対し、鳥獣対策の現状及び被害状況を把握するため、アンケート調査を実施した。
- (2)WM柵設置の推進
アンケート調査をもとにイノシシによる被害の深刻な園地を選定し、地区生産者にWM柵設置講習を実施した。
- (3)捕獲へのセンサーカメラの活用
イノシシによるクリの食害が見られた園地の付近にセンサーカメラを設置し、侵入や被害状況の確認を行った(写真1)。収穫期終了までにイノシシがクリを食害する様子は確認できたが、園地への侵入経路は確認することができなかった(動画1)。
その後、イノシシによる掘り起こしの被害が増加したため、被害の深刻な園地の付近にセンサーカメラを設置し、侵入経路の確認を行った(写真2)。
3 活動結果
- (1)アンケート調査の結果
①イノシシの被害状況
イノシシによる被害が昨年度と比較して多いと感じている人が全体の8割以上を占めた。
②被害金額
被害金額は5万円~15万円(個人の実感)であった。
③WM柵設置の割合及び設置の阻害要因
WM柵を設置している人の割合は、全体の5割未満であり、WM柵の設置が進んでいない状況が明らかになった。また、WM柵を設置するにあたって、設置労力や費用負担、維持管理の手間が大きく、設置は難しいと感じている人が、全体の3割程度を占めた。
- (2)WM柵設置講習会の実施
WM柵設置実践講習とあわせて、電気柵・WM柵の設置方法等の資料説明、アンケート調査の結果報告を行った。WMの設置については、「思っていたよりも簡単」、「5人程度いると作業効率がよい」と前向きな意見があった一方、「物価の高騰により、補助事業を活用しても個人でWM柵を購入することが難しい」との意見もあった。
- (3) 捕獲へのセンサーカメラの活用
イノシシによる掘り起こしの被害が深刻な園地の付近に獣道を発見したため、センサーカメラを設置して経過を観察した。約2週間ほぼ毎日イノシシが獣道を通っている状況が確認できたことから、地区猟友会の協力のもと、くくりわなを設置した(写真3、4)。
しかし、設置方法に不備があったため、イノシシがわなに気付き、その日以降は姿がみられなかった(動画2)。
4 考察
添賀地区の生産者がWM柵は1人よりも5人程度での作業が効率的であること、WM柵等の価格が急激に上昇しており、補助事業を活用しても個人が購入することが難しくなっていること等の情報を共有し、地区が一体となった守りの対策への意識付けを行うことができた。これを契機に、地区の守りの体制構築・強化を進めていく。
また、実際の捕獲には失敗したことから、自身の捕獲技術の向上に努めるとともに、センサーカメラを活用した効率的な捕獲を推進し、地区の捕獲体制の強化につなげる。
写真1:イノシシによるクリの食害
写真2:イノシシによる掘り起こし
写真3:獣道を通るイノシシ
写真4:くくりわなの設置状況
専門家の解説
中山町添賀地区は、栗や落葉果樹の産地であり、今回は特に栗の園地に出没するイノシシの被害対策や捕獲について指導を行いました。
現地踏査を行った際、園地へと続く濃いけもの道を検出し、センサーカメラを設置してもらいましたが、あいにく調査期間中にイノシシの往来は確認できず、すぐに栗の収穫期間が終わってしまったことで、今回の調査ではイノシシの侵入ルートの特定はできませんでした。
実際、防護柵を設置していない農地の場合、イノシシをはじめとする獣類はどこからでも農作物にアクセスできるため、いつも利用しているけもの道にカメラやわななどを設置すると、警戒して道を変えてしまうことがあります。逆に、WM柵や電気柵などを敷設して農地をガードしていると、獣類の侵入ルートも限られてくるため、捕獲や行動検知も効率的に進めることができると考えます。
一方で、守るべき生産物の市場価値が低かったり、収益性が低い生産物の場合、防護にコストをかけにくいという事情もあります。そこで、鳥獣管理専門員には生産者を対象としたアンケート調査を実施していただき、広範囲でかつ凹凸の多い栗園地の防衛に最適なWM柵の普及に向け、どのような課題があるか被害実態の把握に努めていただきました。
アンケート調査で得られた結果と、WM柵に対する市の補助額(実績)のデータから、現時点で生産者が個人でWM柵の敷設を選択することは、費用対効果の面から難しいということが明らかになりました。現在の対策としては、地域の活動資金を活用して、優先度の高い園地から徐々に柵の設置を進めているとのことでしたので、少し時間はかかっても、当地ではこの方策が最も経済的に妥当であるという結論に至りました。
今回の取り組みを通じて、鳥獣管理専門員には理想的な対策が常に地域や生産者に受け入れられるわけではなく、被害の深刻度や対策によって見込まれる収益性、設置コスト等に応じて、最適な対策は異なってくるということを学んでいただきました。鉄材をはじめとした物価の高騰や獣類の生息数増加など、生産者を取り巻く環境条件も異なる中、苦労することも多いとは思いますが、農協職員という立場から一人一人の生産者の声にも耳を傾けつつ、地域の獣害対策に寄り添っていただけるものと期待しています。