えひめ南農業協同組合 みかん指導課 田中 孝史

1 実践テーマ

  • (1)テーマ:
    柑橘苗木における獣害対策
  • (2)対象地区:
    宇和島市津島町浦知地区
  • (3)目的:
    宇和島市は県内でも有数のかんきつ産地であり、ウサギやシカによる農作物被害額が多い。特にかんきつの苗木においては、食害を受けると生育不良となり最悪の場合、枯死するため長期的に生産量に影響を与える。また、宇和島市内では平成30年豪雨災害の復興を進めるため、かんきつの苗木を新植する園地があり、産地振興のためには新植園の苗木の保護が重要となる。
    そこで、営農指導員として担当している津島管内でも有害獣の食害によるかんきつの苗木の被害が多い浦知地区を活動地区として、苗木の獣害対策に取り組んだ。
  • (4)協力者:
    活動地区生産者、地域猟友会

2 活動経過

  • (1)センサーカメラによる食害の様子の確認
    被害の原因となっている獣種の特定や、食害の様子を確認するため、活動地区の園地にかんきつの苗木を定植し、その付近にセンサーカメラを設置して、苗木に被害を与える有害獣の行動等を確認した。
  • (2)苗木を保護する防護柵の作成及び防護効果の検証
    実用性や耐久性、設置の容易さにポイントを置いて防護柵の資材を検討した。宇和島市は真珠の養殖が盛んであり、真珠養殖に用いる網(縦72cm、横45cm 、目合い3cm、重さ約330g/枚)が比較的安価で入手が容易であるため、資材として選定した。
    防護柵に用いる網の枚数が多すぎると、苗木から網までの距離が遠くなるため、網の枚数は4枚または6枚とし、苗木を中心に網4枚を正方形、網6枚を六角形に配置した後、網を結束バンドで固定して防護柵を作成した。その後、この2種類の防護柵について、防護効果の検証を行った (写真1、2)。
  • (3)ノウサギ用誘引捕獲罠の設置及び捕獲
    活動地区の園地内にウサギが頻繁に侵入して、年明け以降に被害が増加した。そこで、近畿中国森林管理局のホームページに掲載されていた「ノウサギ用誘引捕獲罠」のうち、園地内の限られたスペースでも設置が可能な「A型誘引捕獲罠」を設置して、ウサギの捕獲を試みた(写真3)。

写真1 網4枚で作成した防護柵

写真2 網6枚で作成した防護柵

写真3 A型誘引捕獲罠の設置状況(改良後)

3 活動結果

  • (1)センサーカメラによる食害の様子の確認
    センサーカメラでシカによる食害の様子が確認できた。苗木1本が約3分で完食され、予想よりかなり早いスピードで完食していた(動画1)。
  • (2)苗木を保護する防護柵の作成及び防護効果の検証
    網4枚を正方形に配置した防護柵では、設置後にウサギの食害はみられず、十分な効果を確認できた。しかし、設置した園地にシカが出没しなかったため、シカへの効果は不明であった。
    網6枚を六角形に配置した防護柵では、設置後にウサギとシカの食害はみられず、両方の獣種で十分な効果が確認できた。この結果には生産者も興味を持ち、設置してみたいという意見をいただいた (動画2、3)。
  • (3)ノウサギ用誘引捕獲罠の設置及び捕獲
    ハクサイ、ニンジン、ブロッコリーをエサとして罠への誘引を行ったが、どのエサにもウサギは興味を示さず、確実な誘引には至らなかった。また、罠に家庭菜園用の防護ネットを用いたが、目合いが10cmのものでは、ウサギが網目をくぐり抜けていた。そこで、もっと目合いの細かいものを用いたところ、ウサギが網目からくぐり抜けることはなくなったが、罠による捕獲はできなかった。

4 考察及び今後の展開

  • ○センサーカメラを使用することで、シカによるかんきつ苗木の食害の様子を確認することができた。今回は1頭だけの被害であったが、複数個体で襲来する場合が想定されるため、改めて苗木の防護の重要性を考えるきっかけとなった。この映像は3月初旬に実施する生産者へのせん定講習会で生産者に映像を見せて情報提供を行い、苗木防護の重要性を周知する予定である。
  • ○園地全体での侵入防止柵の設置は望ましいが、生産者の高齢化が進み、設置や管理の負担が大きいため防護意識の低下がみられることから、苗木単位での小規模な防護を提案していくことも必要であると考えられる。
  • ○防護柵や誘引罠はまだ実証の途中であり、改良の余地もあるため、今後も引き続き効果の検証を行っていきたい。
参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


 当地では、柑橘類の苗木や樹皮をシカやウサギに食べられる被害が多く発生しており、効果的な対策を提案することが求められていました。特に、若い苗木が食害に遭うと、樹高成長が遅れることで、収穫までの時間や収量に深刻な影響が出ることから、より安価でかつ簡便な方法で若木の被害抑制ができる手法を検討いただきました。

 活動では、まずシカやウサギによる食害発生の様子を記録し、どの程度の高さの防護資材を、どのくらいの面積で設置すれば、被害を確実に防ぐことができるか検討していただきました。そのうえで、真珠生産が盛んな宇和島市津島町の特徴を活かして、真珠養殖用の網材を二次利用することで、少ない労力とコストで確実な防護柵を設置する方法を試行するなど、地域の実情に合った対策を検討いただけたことは高く評価できます。

 今後は、事業期間の終盤に手掛けていただいたウサギ捕獲も含め、各種対策を継続していただき、それぞれの対策の有効性を評価すると同時に、より有効で実効性の高い対策になるよう改良を加えていくことで、生産者さんが実践してみたいと思えるような対策へと結実させていただけるものと期待しています。