中予地方局農業振興課 曽我 洋司

1 実践テーマ

  • (1)テーマ:
    急傾斜地果樹園におけるイノシシ侵入防止対策
  • (2)対象地区:
    松山市由良地区
  • (3)目的:
    松山市由良地区では、柑橘栽培が盛んで、傾斜地を含めて営農が行われている。園地への侵入防止柵はワイヤーメッシュ(以下、「WM」という。)を中心に設置されているが、柵を突破し侵入されるケースが後を絶たない状況で、県育成品種等高単価の柑橘が増加する現在では、被害金額の拡大やそれに伴う農家経営の圧迫が懸念され、侵入防止柵の補強が重要な課題となっている。
    しかし、県内の果樹園地は急傾斜地や隣接地に荒廃地(雑木)が迫り十分な用地が確保できない等、補強作業が難しい園地が多い。そこで、急傾斜地の果樹園における侵入防止柵の補強対策を検討するとともに、急傾斜地にある段々畑でのイノシシ侵入対策の実証に取り組んだ。
  • (4)協力者:
    由良地区の果樹栽培農家、JAえひめ中央、地元猟友会等

2 活動経過

  • (1) 現地確認と被害防止対策の検討
    由良地区の農業者、JAえひめ中央、地元猟友会、専門家を交え課題について協議を行った。当地区はイノシシの侵入防止対策としてWM柵が広く設置されているが、度々突破される被害を受け、対策が急務であることが判明した。その中で、当地区でせとか、伊予柑等を栽培する農家から、新植する苗木の被害防止対策について相談があり、現地確認を行った(写真1、2)。

写真1 関係者を交えた課題検討

写真2 現地確認の様子

  • (2) 急傾斜地での侵入防止柵の補強対策
    隣接地に荒廃地(雑木)が迫っている場所については、ハーフサイズのWMを柵の外側から斜めに固定する技術について実証を行った。その方法は、①WMを横半分に切断する、② ①を樹園地に設置した侵入防止柵の外側に斜めに設置する、③ ②の上部(4~5カ所)を既存の柵に固定する、④ ②の下部は地面に突き刺して固定する、というものである。この補強箇所にセンサーカメラを設置し、イノシシの侵入防止効果を検証した(図1)。

図1 急傾斜地における侵入防止柵の補強対策(今回実証)

  • (3) 段差のある園地での侵入防止対策
    実践活動を行っている園地で、イノシシの侵入による果実の食害が確認された。既存の侵入防止柵が突破された形跡はなかったが、周辺より1m程度段差があることで侵入防止柵を設置していない場所があり、その場所から侵入したと考えられた。そこで、センサーカメラを設置し経過を観察した。

3 活動結果

  • (1) 現地確認と被害防止対策の検討
    新植する苗木の被害防止対策の相談があった農家について、当初の意向は苗木のみを囲うようにWM柵を設置したい、とのことであったが、当該園地はすでにWM柵が設置されていたことから、柵の補強対策を行うことが得策と判断した。
  • (2) 急傾斜地での侵入防止柵の補強対策
    補強対策を行った園地について、約4か月経過を観察したが、現在までにイノシシに突破された事例は確認されていない(動画1、2)。
  • (3) 段差のある園地での侵入防止対策
    センサーカメラによる確認の結果、イノシシが1m程度の石垣に飛び乗り侵入していることが判明したことから(動画3)、園主に状況を説明した。その後、侵入された石垣に沿って新たに侵入防止柵を設置した(写真3)。

写真3 新たに侵入防止柵を設置した園地

4 考察

  • ○今回実証した侵入防止柵補強対策は、実証期間が短時間であったため、継続して観察する必要はあるが、県内では従来のWM柵の下部を30cm程度折り曲げる補強対策が困難な立地の果樹園地が多いことから、他地域の急傾斜地にある園地や荒廃地が近接している園地でも有効な補強対策であると考えられる。
  • ○実践活動を行った園地における侵入防止柵の未設置区間については、今後は段差のある場所を含め、園地全体への侵入防止柵設置に向けた園主との協議を行う。
  • ○今回の実証結果は、由良地区の農業者や関係機関に報告・周知するとともに、他地域への紹介を通じて技術を波及させたい。
参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


 由良地区では、柑橘王国の愛媛県が抱える山間部の防護柵管理の課題に取り組んでいただきました。急傾斜地が多く、柵のすぐ脇までブッシュが迫る山間部の柑橘園地では、イノシシに柵を突破されたとしても山側に十分な作業スペースを作れないことが多く、柵の園地側を補強する対策がとられている様子をよく目にすることがあります。しかし、この方法だと、柵の裾部分をめくり上げるイノシシの行動を食い止めることができず、何度補修しても繰り返し突破され、営農意欲の減退につながることも少なくありません。

 今回、試験的に導入したハーフサイズのWM柵を斜めに突き挿す対策は、こうした環境における裾防衛に効果を発揮するものと期待を寄せています。柵の外側の下草が繁茂すれば、根やツルがメッシュに巻きつくため、時間経過とともに強度は増す方向に推移すると考えられることから、高齢化が進み、今後ますます傾斜地での重労働が負担になる中山間地域の柑橘栽培にとって、有効な対策技術となることを期待しています。

 さらに本課題では、イノシシが高さ1mほどの石垣を駆け上って園地に侵入する様子を撮影することに成功しました。こうした映像資料は、イノシシの身体能力の高さを適切に認識し、園地防衛にどのような視点や工夫が必要であるかをイメージしやすくしてくれることから、指導の際に非常に有効なツールとなります。鳥獣管理専門員には、引き続き積極的に映像収録にも取り組んでいただき、地域の対策促進に貢献していただきたいと思います。