八幡浜支局地域農業育成室 上田 浩晶

1 実践テーマ

  • (1)テーマ:
    温州ミカン専作地帯における鳥獣被害軽減に向けた活動
  • (2)対象地区:
    八幡浜市川上地区
  • (3)目的:
    県内でも有数のかんきつ地帯である八幡浜市は、傾斜地に立地している園地が多いことから、鳥獣害対策で一般的に行われている侵入防止柵の設置を進めるためには、傾斜地に対応した工夫が必要である。
    そこで、地域の現状を把握するとともに、傾斜地にある温州ミカン園地に適した防護技術の検討とあわせて、温州ミカン専作地帯に対応した捕獲技術の検討を行った。また、現在、シカによる被害報告はないものの、近年、急激に捕獲数が増加傾向であることから、将来的な対策の準備に向けた情報収集を行った。
  • (4)協力者:
    地区生産者、八幡浜猟友会会員、えひめ地域鳥獣管理専門員

2 活動経過

  • (1)地域の現状把握と対策に向けた取組
    活動地区の生産者を対象にアンケートを行ったところ、被害金額は年々増加傾向であること、侵入防止柵の設置はあまり進んでいないことが示された。また、わな猟免許を所持していない人で、捕獲補助への参加の意思があると答えた人は全体の51.8%であった(表1)。
  • (2)箱わな捕獲の効果的なエサの検討
    箱わな用のエサとして、温州ミカンがない4~9月には米ぬかを用いているが、活動地区のイノシシは米ぬかを好んで食べないことから、代替のエサが求められていた。そこで、新しいエサとして家畜飼料(ペレット状の配合飼料)に着目し、米ぬかとの比較を行った。
  • (3)適切な侵入防止柵の設置による防護提案
    毎年イノシシの食害を受けておりワイヤーメッシュ柵(以下、WM柵)の設置を検討している生産者の園地で、イノシシの侵入を抑止できる柵の設置方法を検討した。
  • (4)被害が懸念されるシカ対策の検討
    シカ対策の事例を学ぶために、鬼北町・松野町へ関係機関(市町・JA職員・県林業課・管内鳥獣管理専門員)を参集し、現地視察を行った(写真1)。

表1 捕獲補助への参加意思(対象:わな免許を取得していない人、回答数:56人)

写真1 屋内研修(松野町役場内)

3 活動結果

  • (1)地域の現状把握と対策に向けた取組
    生産者45人を対象に、捕獲に対する意識向上を目的とした研修会を開催した。研修会では、地区内の捕獲従事者の取組成果、捕獲に関わる八幡浜市の助成制度の紹介や、捕獲効果の向上のためには地元の園地条件に詳しい生産者の存在が必要であることを説明した(写真2)。また、えひめ地域鳥獣管理専門員の取組事例報告や専門事業者による講義を行った。
  • (2)箱わな捕獲の効果的なエサの検討
    7~11月に米ぬかと家畜飼料を並べて比較したところ、米ぬかには食痕がないが、家畜飼料には食痕があることを5事例確認するとともに、イノシシが米ぬかではなく家畜飼料を食べる様子が確認できた(動画1、2)。同期間に米ぬかを使った昨年度のイノシシの捕獲数は0頭であったが、家畜飼料を使用した今年度の捕獲数は5頭であった。
  • (3)適切な侵入防止柵の設置による防護提案
    有害獣の被害がある園地にセンサーカメラを設置したところ、摘果ミカンや収穫前のミカンを食べるイノシシの様子が確認できた(動画3、4)。この映像を当該園地の生産者及び当該園地と隣接する園地の生産者と共有し、共同柵の設置を提案した。また、段々畑で農道より低い位置にある園地におけるWM柵の設置について、柵を園地に対して垂直に設置し、柵と壁でV字型を形成する方法を検討した(写真3)。
  • (4)被害が懸念されるシカ対策の検討
    シカ対策では、WM柵の高さが1.8m以上必要であるため、補強対策として支柱2本につき1本の筋交いの設置が必要となること等について、営農指導員を対象に情報提供を行った。

写真2 捕獲従事者の活動報告

写真3 段々畑における柵設置の検討

4 考察及び今後の展開

  • ○捕獲に対する意識向上を目的とした研修会では、実践活動の集大成として、地域ぐるみで鳥獣害対策に取り組む必要性を説明することができた。今後は、鳥獣管理専門員として、生産者が研修内容を実践できるように支援していきたい。
  • ○箱わな捕獲の効果的なエサの検討では、家畜飼料の費用は約1万円(半年換算)で、地区の猟友会員からは「温州ミカンがない時期に捕獲が進むのであれば、費用対効果に見合っている」という意見をいただいた。他の箱わなでも今回使用した家畜飼料について、イノシシの誘引効果の検証を行っていきたい。
  • ○段々畑で農道より低い位置にある園地におけるWM柵の設置方法として、今回検討した柵を園地に対して垂直に設置し、柵と壁でV字型を形成する方法については、今後、センサーカメラなどを活用してイノシシに対する防護効果の検証を行っていきたい。
参考動画(タイトルをクリックください。)

専門家の解説


 柑橘栽培が盛んな川上地区は、山肌の全面にびっしりと柑橘園地が広がる特徴的な地形をしており、イノシシやシカが生息可能な森林部は尾根線部を中心に、限られた面積で筋状に分布している状況でした。一般に、こうした地形では、加害動物は森林部を伝って農地に侵入するため、移動ルートを掌握しやすく、捕獲効率も高くなることが知られています。

 今回、鳥獣管理専門員が取り組んだテーマの一つに傾斜地の防衛に強いWM柵の敷設がありましたが、各園地に適切にWM柵が整備されれば、さらに加害動物の行動は制限されるため、地域に適したエサ種の選定と合わせて、捕獲効率をさらに向上させる方向に貢献するものと期待されました。

 一方で、事業開始時に実施したヒアリング調査では、地域に捕獲従事者が少なく、一部の従事者に大きな負担が掛かっている現状も知ることができました。アンケート調査では、狩猟免許を有していない生産者の中にも捕獲への参画の意欲を示してくれた方も50%強おられたことから、今後、こうした人材の掘り起こしを行い、捕獲にかかる労力を地域で分担していくことが重要になってくると考えます。